「芹沢さん! ちゃんと説明したの?!」

先生が僕の隣の女子に向かって声を荒げた。女子は芹沢という名字らしい。
先生は興奮と疲れで息が乱れているようだ。

「すいません、説明不足でした」

芹沢が、無表情のまま先生と目を合わせずに言った。

「まったく!……最近、あなた生意気ですよ。後で職員室に来なさい」

そう言うと、先生はヒールの音を鳴り響かせて教卓に戻った。震える声を必死に落ち着かせようとしながら、授業を再開した。

「ADHD、注意欠陥多動性障害って知ってる?」

休憩時間になって、初めて芹沢が話しかけてきた。相変わらず表情がない。

「脳の障害が原因で授業中に歩き出したり、奇声を発したり、いきなりキレたり、症状はいろいろある病気のことだけど、あの子そうなんだって。なぜだか分からないけどあの子の場合、毎日9時9分になったら奇声を発して教室内を歩き回るの。特殊な症例らしいわ。その時彼と目が合ったり話しかけたらさっきみたいにヤバくなる。3分くらい無視してれば、彼は席に座って元通りに静止する。そのことを転校生のアンタに説明するように先生から言われてたんだけど、彼が目を合わせられたらどうなるのかを一度見てみたかった。だから、黙ってたの。ごめんね」