僕もこのように、大人のニオイをまるごと一部屋に漂わすようになるのだろうか?
歯を磨いている最中に、後ろで洗面所のドアが開く音がした。

「じゃあ、会社に行ってくるぞ」

父は毎朝、洗面所にいる僕に挨拶してから玄関を出る。
僕は父に背を向けて口をゆすいでいたから振り向かずに、いってらっしゃいの代わりに「うん」と言った。
蛇口から出る水の音だけが数秒響いた後、父が洗面所を去る足音が聞こえた。
今日はなぜか、いつもより長い間、父に後ろ姿を見られていたように感じた。

「今日はカレーだ!!」

授業中に体重八十キロの肥満児が叫んだ。皆が爆笑した。先生が笑顔をしかめて「私語はやめなさい」と言った。
昼休憩に近づくと、おいしい匂いが給食室から漂ってくる。
僕は嗅覚の意識を集中させた。カレー以外のおかずも分かる。マヨネーズであえたポテトサラダにマカロニとキュウリが入っていて、デザートはヨーグルトだ。
でも声には出さない。
発言したが最後、皆から気持ち悪がられるだろう。