翌朝、父から発していた甘い臭いが薄くなっていた。これで、父の体内から直接発生してないことが分かった。
そう思いたくなかった。せめて病気であって欲しいと願っていた。
昨日の父の甘い臭いは母の体から発する種類のものと似ていたが、それよりもっと濃かった。どちらかというと、学校の先生に近かった。
先生は22才の女性。母とよく行くスーパーの若い女性店員も同じ匂いがしていた。それだけでなく、登下校時に擦れ違う女子高生等からも、同種の匂いを感じていた。
昨日、父は若い女の人と会っていたのだろうか?
そうだとすれば、近くで女性と会話しただけで、体に臭いが移るだろうか?

僕はこのことについて深く考えないようにした。それなのに春休み中、度々父が甘い臭いを体につけて帰ってきた。
父は会社から帰宅するとまず、リビングに座って煙草を吸う。煙草を口と灰皿へ行き交わすたびに、日焼けしたたくましい腕が動く。
手首に巻かれた金色の腕時計が動いて部屋の明かりをピカピカ反射させる。
僕はその様子をぼぉ~っと眺めるのが好きだったが、父から甘い臭いがする日は、逃げるようにリビングを離れた。