そう言いながら、芹沢がキッチンの前に立った。ガスコンロの下にある戸棚を開けてフライパンを出した。
続いて、冷蔵庫を開けてしゃがんだ。ガサガサと袋を漁る音が聞こえてきた。
僕の腹がぐぅ~っと鳴った。体が観念したようだ。
肉が献立にないと聞いて少し緊張がほぐれた。
料理を自分で作るなんて、結構器用なんだな。意外と良いお嫁さんになるかもしれない。
僕は、変なことをぼぉ~っと考えながら、ソファーの後ろに突っ立っていた。窓の外を見ると、雲一つない青空だった。白いカーテンが揺れている。鳥の鳴き声が気持ちの良い風に乗って部屋に流れこんできた。

「冷蔵庫開けて、好きなの飲んでいいよ。麦茶、コーラ、ポカリ入ってるから。あっ! 上の冷凍庫は開けないでね、たくさん物が入っていて中の物が落ちてくるから」

芹沢がフライパンの上で長い箸をかき混ぜながら言った。
そんなことを言われると、冷凍庫に好奇心がいってしまう。
僕は冷凍庫に向かって意識を集中させた。
目を閉じて持ち前の嗅覚を研ぎ澄ます。

……錆のような霜のニオイが広がる中で、なぜか金属が入り混じったオレンジの香りがした。
冷凍ミカンだろうか?――そして、その下に……大きな肉。