僕は目だけを動かして周囲を見た。
雑談やトランプをするグループ、女子にちょっかいをだして逃げ回る男子といった光景は、前の学校と変わらなかった。
ただ、独りぽつんと席に座っている生徒が、僕以外にもう一人いた。
僕の列の前から3番目の男子だった。
その男子は、背骨を曲げて頭を前に垂れた姿勢のままじっとしていた。
僕は何もすることがないので、ノートの中央に算数の教科書を重ねて机の左角にぴったり合わせて配置した。
時々、前から3番目の男子を見た。
彼は身動き一つせずにずっと同じ姿勢で固まっていた。

1時間目の授業が始まった。
先生の頭上にある時計の針が9時を指すと、緊張してきた。

何が起こるのだろう?

もしかして、イジメかもしれない。
9時9分になった途端、前後左右から丸めた紙クズ、消しゴムのカス、鉛筆の削りカス、輪ゴムなどが僕めがけて飛んでくるかもしれない。
それとも、もっと別の恐ろしいことをされるかもしれない。勿論、先生にバレないように……。
もしイジメだったら、いつまで続くのだろう。考えれば考えるほど不安になった。
息が乱れた音が周囲に聞こえないように深呼吸を繰り返した。